アパートやマンションの契約に必要な保証人。
兄弟に保証人になってと頼まれて困った…という方もいるのではないでしょうか。
両親が健在ならそちらにとお願いしやすくても、すでに亡くなっていたりや年金暮らしだったりと、兄弟に頼むしかない場合もあります。
ただ、万一の場合には多額の請求が来ることにもなるため、兄弟だからと無条件に引き受けると後で困ったことになりかねません。
私も兄弟から保証人を頼まれたことがありますが、契約書に目を通し、兄弟の勤勉さや関係性、最悪被るであろう債務額も考えた上で引き受けました。
保証人を引き受けた場合のデメリットを知ったうえで、引き受けるかどうかを判断するといいですよ。
契約書を読む際は、宅建士試験合格したときに得た知識が役に立ちました。
今回は、アパートやマンションなどの賃貸の保証人を兄弟に頼まれた方へ、引き受けるかどうかを決める前にまずするべきことや賃貸の保証人とはどのようなものか、保証人を断る方法についてまとめます。
令和2年の民法改正以降の契約で変わる連帯保証人の項目も合わせてチェックします。
賃貸の保証人を兄弟に頼まれたときに最初にするべきこと
賃貸の保証人を頼まれたときは、関係性にヒビが入ると心配かもしれませんが、すぐ引き受けると即答するのは避けましょう。
賃貸の保証人を兄弟に頼まれた場合、まずするべきことは、契約内容を確認すること。
兄弟が困って助けてと言ってきているのに薄情なと言われそうですが、保証人になることでどのようなことが起こりうるかを把握しておくことが大切です。
賃貸の保証人となる契約の内容を把握する
国土交通省のHPに『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』という雛型があります。
住宅の賃貸借契約書の内容は大体このような内容で構成されています。
賃貸の保証人になったときに関係する内容は費用負担の項目ですね。
保証人となったときに主に関係する項目を『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』でチェックして行きましょう。
まず、頭書の部分で主にチェックするべき点は
・賃料…家賃
・共益費…管理費
・一時金…契約時に払う礼金や契約更新時にかかる更新料など
の3つです。
契約者である兄弟が家賃を滞納した場合、保証人は『(賃料+共益費)×滞納月数』の額を弁済する(代わりに大家さんに支払う)ことになります。
もちろん、入居後に使用した附属設備(ミーティングルームなどの共有スペース)の利用料の滞納があった場合も同様です。
ちなみに、入居時に支払う敷金も賃貸借契約上は大事な項目ですが、家賃滞納しても物件の明渡し前には賃借人が敷金を滞納家賃に充てることはできないため(※)、保証人側からも敷金で相殺してくださいということはできません。
『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』の、本文(契約書部分)の第6条第2項にもその旨記載がありますし、最高裁判所での判例もあります。
敷金は原状回復費用を差し引いて返還されるのが一般的ですが、家賃滞納など賃借人の契約の履行状況が悪質な場合は、明渡し後に敷金が返還されない場合もあります。
そのため、保証人としては敷金の額はあまり関係ないかもしれません。
また、本文第10条には、契約解除について次のような記載があります。
(契約の解除)
第 10 条 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務
の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除す
ることができる。
一 第4条第1項に規定する賃料支払義務
二 第5条第2項に規定する共益費支払義務
三 前条第1項後段に規定する費用負担義務
この契約書上の甲は貸主、乙は借主なのですが、貸主が『相当の期間を定めて』賃料の支払いを催告しても支払われなかった場合は契約解除とされていて、具体的な期間の記載はありません。
貸主さんの裁量によって、3ヶ月の滞納で契約解除になることもあれば、2年の滞納後に契約解除ということもあり得るわけです。
一人暮らしのワンルームマンションで5万円の家賃で3ヶ月の滞納家賃なら15万円でも、24ヶ月となれば120万円となり、かなりの負担になることが考えられますよね。
ファミリータイプのマンションの場合は、相当の費用負担が発生する可能性があることを覚悟する必要があります。
ただし、保証人の費用負担については、民法が2020年(令和2年)4月1日に極度額を規定する旨改正されます。
民法改正による保証人の費用負担の変更点については後述します。
最後に確認すべき点は、契約書第16条(※『平成30年3月版・連帯保証人型』では第17条)の連帯保証人についてです。
今まで保証人、保証人と言っていた保証人が、『連帯保証人』である旨が記載されています。
実は、『保証人』と『連帯保証人』とでは、法律上大きな違いがあります。
保証人と連帯保証人の違い
『保証人』も『連帯保証人』も、賃借人の滞納家賃を弁済する義務がありますが、連帯保証人には保証人にある3つの権利が認められていないんです。
家賃の保証人の場合にあてはめて説明します。
1.催告の抗弁権(民法452条)
催告とは、『相手方に対して一定の行為を請求すること』を言います。
今回のケースでは、『保証人に弁済を請求する前に、契約者である賃借人である兄弟に家賃支払いを請求してください』と主張する権利のことです。
2.検索の抗弁権(民法第453条)
賃借人が車など財産を持っている場合、実は弁済できるお金があるのに滞納している場合もありますし、現金がなくても財産を売ったお金で弁済できるはずです。
賃貸人が財産を持っていてそちらから簡単に取り立てできることを保証人が立証した場合には、貸主は先に賃借人である兄弟の財産から取立てをしなければならないとされています。
3.分別の利益(民法456条)
保証人が複数人いる場合、一人の保証人が支払う滞納家賃の額は、保証人の人数で割った額が上限とされています。
保証人に対しては民法上3つの権利が規定されていますが、連帯保証人にはこのような権利はありません(民法454条に規定されています)。
連帯保証人は滞納家賃の弁済を貸主から請求されてしまったら、賃借人である兄弟に財産があろうとなかろうと関係なく、連帯保証人が弁済しなくてはならないのです。
このように、『保証人』と一般的に言われることが多い住宅の保証人ですが、『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』のひな型通り、ほとんどのケースで『連帯保証人』として契約書に記載されています。
もし、滞納家賃が発生した場合は、自分の家庭に大きな経済的なダメージを与える可能性があるということです。
そのため、兄弟がもしお金にだらしがない、定職に就かず転職を繰り返しているなどの不安要素がある場合は、きっぱり断るというのも仕方ないのではないでしょうか。
賃貸の保証人を断る方法
賃貸の保証人を断るときは、きっぱりできない理由を伝えるのがベター。
家庭がある方の場合は、夫(妻)が許してくれないというのが一番角が立ちません。
夫(妻)の親戚で保証人になって苦労した人がいるので、絶対に無理だと言われたというと仕方ないと思ってくれることも。
また、遠方に住んでいる場合などは、最終手段として保証人に慣れない理由があると嘘をついて断るのも手です。
・『実は私自身に多重債務があって、連帯保証人にはなれない』
いわゆる金融機関のブラックリスト入りするくらいたくさんの借金がある場合は、連帯保証人になれません。
・『友達の連帯保証人になって逃げられてしまい、弁済で手一杯だから無理』
これもなかなか苦しい嘘ですが、実際に連帯保証人になって弁済中となれば、他の人の保証人になんてとてもなれません。
嘘がバレたときに兄弟間にしこりが残る可能性が高いですし、もし嘘を信じられて信用を無くすのも悲しいものがありますね。
できれば、断る断らないの前に、『保証人代行サービス』の存在を教えてあげるのが一番スマートかもしれません。
最近は、保証人を立てる代わりに保証人代行サービスを利用することで入居できる物件もあります。
兄弟であればフランクに『うちも子供が小さくて保証人にはなれないわ。保証人代行サービスを利用できないか、不動産屋さんに相談してしたら?』と言えるとベストです。
保証料代行サービス料金は、契約時は賃料の0.5ヶ月から1ヶ月分くらいに収まるところが多いようです。
継続料金としては、年間費用が定められているところもあれば、更新料は新家賃の1ヶ月分というところなど、会社によってまちまちのようです。
兄弟がどうしても金銭的に余裕がなくて保証人代行サービスを渋るようでしたら、保証人代行サービスの契約時の費用を払うなど譲歩をするのもありかもしれませんね。
もちろん出費は痛いですが、ただ『うちも厳しいからできない』と切り捨てるよりも、こちらからも幾分負担をすることで兄弟の理解は得られやすくなります。
民法改正で連帯保証人に極度額が設定されることに
今までの賃貸の保証人は、家賃滞納が生じた場合に貸主から催告を受けたときに弁済をしなければいけないという流れでした。
弁済する金額は家賃滞納額であり、保証人の負担が非常に大きかったわけです。
ですが、2020年(令和2年)4月1日の民法改正で、保証人保護の観点でいくつか条文が改正されました。
それに伴い、賃貸住宅標準契約書も新民法に対応する形で『平成30年3月版・家賃債務保証業者型』と『平成30年3月版・連帯保証人型』の2種類が新たに作成されました。
家賃債務保証業者型は、先に上げた『保証人代行サービス』を利用した形の契約を想定したひな型です。
連帯保証人を立てるのが難しいケースを見越して作られたものです。
『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』と『賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)』の連帯保証人についての条文を引用します。
『賃貸住宅標準契約書(改訂版)』
(連帯保証人)
第 16 条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担
するものとする。
『賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)』
第 17 条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を
負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。
2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。
3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。
4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞
納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。
『賃貸住宅標準契約書・改訂版』から『賃貸住宅標準契約書・平成30年3月版・連帯保証人型』の改正点
『改訂版』と『平成30年3月版・連帯保証人型』で異なる点は3つあります。
・賃貸借契約が更新された場合は連帯保証契約も更新される旨を明記(第17条第1項)
今までも契約書に明記されていなくても賃貸借契約が更新された場合には連帯保証契約も更新されるとみなされ、契約更新後に家賃滞納が発生したときには連帯保証人が弁済していました。
今回は契約書に明記することで、連帯保証人にとってわかりやすい契約になっています。
・連帯保証人が保証する債務の限度額(極度額)を設定(第17条第2項)
今までは貸主の裁量で『相当の期間を定めて』賃料の支払いを催告しても支払われなかった場合は契約解除、滞納家賃額はそのときに貸主から請求という流れでした。
そのため、連帯保証人は請求が来て初めて多額の滞納家賃の支払いの存在を知り、請求された額を弁済しなくてはならなくなります。
今回、連帯保証人の極度額が設定されることにより、家賃滞納が発生した場合にも、極度額を超える支払いを連帯保証人が支払うことはなくなります。
なお、極度額の記載のない賃貸借契約書の場合、連帯保証に関する条項は無効(名前を書いたとしても連帯保証人にならない)とされています。
・連帯保証人の支払うべき債務の確定時期は、借主または連帯保証人が死亡したときと明記(第17条第3項)
連帯保証人の支払うべき債務というのは、家賃滞納が発生していた場合の滞納家賃等の費用のことです。
この条文は、もし滞納家賃等が発生していた場合で極度額を超えていなくても、借主または連帯保証人のどちらかが亡くなった時点で、連帯保証人が弁済するべき金額が確定するということです。
これは、連帯保証人と貸主との連帯保証契約は借主または連帯保証人のどちらかが亡くなった時点で終了するということです。
借主が亡くなった場合が亡くなった場合でも、賃貸借契約自体が当然に終了するわけではありません。
家族で住んでいる借主が亡くなったとき、借主の名義を妻や子供に変更をして借り続けるというのはよくあることです。
同様に、連帯保証人が亡くなったことが、賃貸借契約に影響を及ぼすことはありません。
ただ、借主または連帯保証人が亡くなった場合、連帯保証契約が終了することで次の点に注意が必要です。
借主が亡くなった場合、連帯保証人は借主が亡くなった時点で家賃滞納などが起こっていた場合は、確定した負債を貸主に支払わなくてはなりません。
連帯保証人が亡くなった場合は、連帯保証契約は自体はその時点で終了しますが、相続が発生し、相続人が連帯保証人の地位を承継することになります。
連帯保証人が亡くなった時点で借主の家賃滞納があった場合、相続人が相続放棄をすれば弁済の必要はなくなりますが、基本的には連帯保証人の相続人がその負債を相続することになるのです。
なお、借主、連帯保証人いずれが亡くなった場合でも、借主名義で借りていた住宅に住み続けたい場合、新たに連帯保証人を探すまたは保証人代行サービスを利用するなどの対策をする必要があります。
・賃借人から連帯保証人への情報提供義務について(第17条第4項)
連帯保証人は、これまで借主から知らされなければ家賃支払い情報を知ることもできないまま、急に貸主から滞納家賃の請求を受けるということがほとんどでした。
今回の条文改正で、連帯保証人が貸主に借主の家賃支払い情報などを問い合わせて知ることができるようになりました。
従来の民法よりも連帯保証人の立場に配慮した条文が追加されていますので、民法改正前にもし連帯保証人になる場合でも改正民法に沿っ契約にできないか相談してみるというのも一つの方法かもしれません。
住宅の連帯保証人の極度額の目安は?
民法改正で住宅の賃貸の連帯保証人に極度額を設定することになりましたが、実際にどのくらいの額の極度額を設定する場合していいのかわからないですよね。
国土交通省の『極度額に関する参考資料』には、住宅の極度額を考えるにあたり、様々な資料があります。
その中で実際に今まで裁判所で連帯保証人が滞納家賃等を負担する判決が出た場合に、連帯保証人が負担することになった滞納家賃等の額をまとめた表がありました。
平均で家賃の13.2ヶ月、最大で33ヶ月の滞納家賃等を支払った事例があるそうです。
裁判で確定判決が出るまでこじれた事例のため、実際の極度額の設定はもう少し少額になるかもしれません。
ただ、連帯保証人になった場合、それくらいの費用負担が発生する可能性があるということを肝に銘じておく必要はあるのではないでしょうか。
まとめ
賃貸の保証人とはどのようなものか、保証人を断る方法、令和2年の民法改正以降の契約で変わる連帯保証人の項目などについてまとめました。
兄弟助け合っていくことはとても大事ですが、賃貸の保証人になることはかなり高額の支払いを請求される可能性もあります。
信頼できる兄弟であったり、どうしても助けてあげたいと思う場合は、それなりの覚悟をもって保証人になる必要があります。
一般的に保証人と言われますが、住宅の賃貸の保証人は連帯保証人であることがほとんどで、一般的な保証人に認められる権利が認められていないなど、かなり不利な立場になることが考えられます。
兄弟がもしお金にだらしがない、定職に就かず転職を繰り返しているなどの不安要素がある場合は、きっぱり断るというのも仕方ないです。
嘘をついたりして断ることもできますが、できれば保証人代行サービスの利用をすすめられるといいですね。
どうしても保証人を引き受ける場合は、令和2年4月1日から民法改正により極度額の設定など、従来の規定と異なり連帯保証人の立場に立った規定が追加されています。
令和2年4月より前に契約書を交わされる場合でも、改正民法に即した契約ができないか相談してみるといいですよ。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
お読みいただきありがとうございました。